炎症性腸疾患(IBD)とは

炎症性腸疾患（IBD）は、腸の粘膜に慢性的な炎症が生じる疾患群で、主に「潰瘍性大腸炎（UC）」と「クローン病（CD）」の2つが含まれます。どちらも免疫異常が関与していると考えられており、自己免疫疾患の一種とされます。若年～中年層に多く発症しますが、最近では高齢者や小児での発症も増加しています。症状の強さや発作の頻度には個人差があり、「寛解期」と「再燃期」を繰り返すのが特徴です。

炎症性腸疾患の主な症状

炎症性腸疾患は、腸管に炎症が起こることで以下のような多彩な症状を引き起こします。

• 慢性的な下痢：特に潰瘍性大腸炎では血便を伴うことが多いです。

• 腹痛：クローン病では小腸が狭くなる「狭窄」による痛みを伴うことがあります。

• 血便・粘血便：腸粘膜のびらんや潰瘍による出血が起こります。

• 発熱：炎症が強い場合や合併症がある場合にみられます。

• 体重減少・栄養障害：特にクローン病では小腸からの吸収障害が原因となります。

• 貧血：出血や栄養不良によって起こります。

• 疲労感・全身倦怠感：慢性炎症に伴う全身症状が見られます。

これらの症状は日常生活に大きな支障をきたすことがあり、早期診断と適切な治療が重要です。

付随する症状・合併症

炎症性腸疾患は腸管だけでなく、全身にさまざまな症状を引き起こすことがあります。

①関節炎

膝や手足の関節に痛みや腫れが生じることがあります

②皮膚症状

結節性紅斑や壊疽性膿皮症などが起こります

③目の症状

ぶどう膜炎や虹彩炎が起こります

④肝・胆道系疾患

原発性硬化性胆管炎（潰瘍性大腸炎に多い）などが見られます

⑤口腔内アフタ

クローン病でよくみられる症状です

⑥腸閉塞・瘻孔形成（クローン病）

腸が狭くなったり、異常な通路（瘻孔）ができる合併症

また、長期間の炎症が持続すると、大腸がんのリスクが高まるため、一定年数以上罹患している方には定期的な内視鏡検査が推奨されます。

炎症性腸疾患の原因

炎症性腸疾患の明確な原因はまだ解明されていませんが、以下の要因が関与していると考えられています。

①遺伝的要因

家族歴があると発症リスクが高まる

②免疫異常

自己免疫反応によって腸粘膜が攻撃される

③ 腸内細菌の乱れ（腸内フローラ異常）

④環境因子

ストレス、喫煙（クローン病では悪化要因）、食生活など

これらの要因が複雑に関与し、体の免疫システムが本来守るべき腸粘膜を誤って攻撃してしまうことで、慢性的な炎症が引き起こされます。

炎症性腸疾患の検査

診断には以下のような検査が行われます。

①血液検査・便検査

炎症反応（CRPなど）、貧血、便中カルプロテクチンなどを診ます

②内視鏡検査（大腸カメラ）

腸粘膜の炎症や潰瘍の状態を直接観察・生検します

③画像検査（CT/MRI/小腸造影）

クローン病では小腸病変の評価を行います

④ カプセル内視鏡

小腸全体の評価に用いられることもあります

炎症性腸疾患の治療

治療は症状を抑えて寛解を維持する「寛解導入療法」と「寛解維持療法」に分けられます。

①5-ASA製剤（メサラジン）の処方

潰瘍性大腸炎の第一選択となります。

②ステロイド薬の処方

中等症～重症の急性期に使用します。

③免疫調整薬（アザチオプリンなど）の処方

維持療法に使用します。

④ 生物学的製剤（抗TNFα抗体など）

難治例やクローン病に有効とされています。

⑤栄養療法

特にクローン病で有効とされています。

⑥外科手術

薬物療法でコントロールできない場合や重度の合併症がある場合に検討されます疾患の種類や重症度、合併症の有無に応じて個別化した治療計画が必要です。

炎症性腸疾患は、長期間にわたって腸や全身に影響を与える慢性疾患です。治療により多くの方が日常生活を取り戻すことが可能ですが、再燃を防ぐための継続的な管理が欠かせません。当院では、消化器専門医が丁寧な診断と治療を行っており、必要に応じて栄養指導や合併症の診療も行っております。腹痛や血便、慢性下痢など